親族間売買の住宅ローンの審査が通りにくい理由
私は不動産担保ローン事業の立ち上げに携わり、関東財務局や日本貸金業協会とのやり取り、融資業務、金融機関からの融資金の資金調達、債権管理の全てを行っていた経験を持ちます。銀行法と貸金業法とで立場は違えど、金融機関としての根本的な考え方は同じです。以下審査が通りにくいと言われている住宅ローンについてご説明します。
リスクが高いというワケではない
よく「不正利用される、資金使途が不透明だからリスクが高く審査が厳しい」という記事を見かけますが、全く大きな理由ではありません。そもそも金融機関にとって住宅ローンは貸し出ししたい商品のひとつです。みなさんが金融機関の立場になって考えてみて下さい。知人に事業用資金で1000万円貸すのと居住用不動産の取得に貸すのではどちらを選びますか?もちろん住宅ローンを選ぶと思います。金融機関にとって以下のようなメリットがあります。
- 事業用資金より多額の資金を貸し付けられる
- 抵当権設定ができ、回収不能となったら不動産を競売にかけて回収(時価の8割程度)することができる
実際に住宅ローンの保証会社は毎期しっかりと利益を出しています。仮に資金使途が不明でリスクが高いのであれば貸し出し金額を下げたり、貸出金利を上げればいいだけの話です。
実はコンプライアンスやトラブルを気にしている
コンプライアンスについて
金融機関は法律により厳しい規制がなされています。一般消費者である個人に対する貸し付けについては特に厳しいです。銀行法とは直接関係ありませんが貸金業法の総量規制も、多重債務者を出さないようにするために返済目途の立たない多額の貸し付けを規制した法律です。住宅ローンの貸付金額は年収を大きく上回りますが、長期の返済期間、金利が安いことなどを理由に月々の返済額が抑えられ、かつ自己の居住用であることで貸し付けが認められているのです。(貸金業法上でも総量規制の除外規定として住宅ローンの貸出が可能)
トラブルについて
住宅ローンの貸し出し相手は必ず一般消費者の方になります。一般消費者の方は個人事業主らと異なり消費者契約法その他で守られています。少し前のニュースで住宅ローンと偽り投資用不動産の購入資金に充てていた債務者が金融機関を訴えていました。融資する時は感謝されど期限の利益が喪失して一括請求されたりしたら必ず反目になるのが融資の世界です。親族間売買はやはり一般の住宅ローン借入をする人に比べトラブルになる可能性が高いため、慎重にならざるを得ないのです。
つまり金融機関の考え方とは
つまり住宅ローンに限らず融資全般に対する金融機関のスタンスは、
- 法律の枠組み・社会的道義の範疇の中で
- リスクとリターンを比較検討し
- 投資(住宅ローンの融資)を行っている
に過ぎないのです。この考え方を理解しないことには金融機関との住宅ローンのやり取りもうまくいきません。このようなお膳立てをしても門前払いされる場合は現場レベルで杓子定規に対応しているからなのか、全社的にそのようなスタンスなのか判断する必要もあります。
親族間売買の住宅ローン審査
親族間売買で住宅ローンを借りようとする時についつい疎かにしがちですが、あくまで借りるのは居住用不動産の購入資金の借入であり、「資金使途自由なお金を住宅ローン名義で貸して欲しい」というワケではありません。「通常の住宅ローン審査」の条件をしっかりとクリアし、「親族間売買の審査」をケアすればよいのです。
通常の住宅ローン審査
通常の住宅ローン審査では
- 収入(返済能力調査)
- 不動産評価(担保評価)
- 団体信用生命保険(不測の事態に備えた審査)
の3つを審査します。
収入を調査して返済できる能力を調べ、滞納してしまったら不動産を競売にかけて貸付金を強制的に回収できるようにし、万が一病気や死亡による支払不能状態になれば保険金で貸付金が回収できるようにするためです。
当然親族間売買での住宅ローンにおいてもこの3つの条件をクリアしなければなりません。「不当に安いと審査に引っかかる」というコメントをする専門家もいますが、金融機関の貸し倒れリスクから考えると何ら関係ありません。仮に低額譲渡で贈与税が課税されたとしても納期限(贈与税申告期限)は所有権移転した日の属する年の翌年の2月ですから、公売にかけられたとしても住宅ローンの後順位になりこれまた回収に何ら関係はありません。
親族間売買の住宅ローン審査のポイント
上記の通常の住宅ローン審査がしっかりとクリアできる条件が整っていたら、ようやく親族間売買の住宅ローン審査です。(この流れはあくまでお客様側の準備手順です。)話はそれほど難しくはありません。自己の居住用不動産であるかどうかです。この1点がクリアできればあとは金融機関毎に対応が変わってきますが可能性は高まります。
親族間売買の検討の前に!金融機関の融資の型を理解する
都市銀行・地銀・信金・信組に限らず一般的な金融機関の住宅ローンのパターンは3つに分類されます。そこを理解しないことには住宅ローンの攻略は場当たり的になります。
1. グループ会社の保証会社が抵当権設定をする融資
都市銀行や大手地銀などはこのパターン
都市銀行などは住宅ローンの融資を行う際にこの形式となります。銀行名を冠して「〇〇(信用)保証」という社名のところがほとんどです。そして融資から回収まで以下のような手順で対応します。
融資時:保証料(融資金の2%前後が多い)を支払い、保証会社が抵当権設定
滞納時:滞納している融資金元金を一括して保証会社が金融機関に代位弁済
回収時:保証会社が競売申立をして回収
です。このパターンは回収まで自社グループ内です。余計なトラブルに巻き込まれたくないですから親族間売買はほぼ難しく思われます。ただし名前や住所で親族であると判別しなければ杓子定規に対応される可能性があります。
なぜ保証会社を設けるのか?それはBIS規制で自己資本比率を維持しなければならないから
なぜ金融機関はわざわざ保証会社を設立するのでしょうか。それは自己資本比率を8%(国内業務だけなら4%)を維持しなければならないからです。これを下回ると銀行業務が行えなくなります。そして住宅ローンがなぜ関係してくるのかというと、貸倒引当金(滞納リスクのある債権額に一定割合を乗じてあらかじめ損金計上する勘定科目)と関係します。住宅ローン滞納者の債権額の一部をいちいちマイナスに計上していたら自己資本の棄損に直結します。また管理面でも手間が生じます。よって保証会社を設けているのです。この考え方はどの金融機関も同様です。
2. 保証業務を行う保証会社が抵当権設定をする融資
地銀・信金など大手ほどの資力のない金融機関はこのパターン
保証業務を行う会社はたくさんあります。大きいところでいうと「全国保証」です。その他に不動産担保ローン事業を行っているノンバンクが保証業務を行っていることもあります。融資から回収までは都市銀等と同じですが代位弁済してくれる保証会社が他社になるということです。
よって担当者としては保証会社さえOKなら問題ないというスタンスですが、それも問題が発生しそうにもないのであればという前提になります。名前や住所で親族であると判別しなければ杓子定規に対応される可能性があるという点も同様です。
3. プロパー融資(貸し出す金融機関が直接抵当権を設定)
地銀・信金・信組などで対応。支店長ベース・担当者ベースで対応が変わる
プロパー融資とは「〇〇銀行」「〇〇信金」などが抵当権を設定するケースです。融資から回収まで全て自行内で実施します。つまりリスクもリターンも全て自行内で引き受けるということで、この場合支店長や担当者のやる気によってかなり対応が変わります。支店長が異動したら途端に対応が変わったということも起こりうるのです。このような金融機関の開拓が重要になるでしょう。
いかがだったでしょうか。親族間売買の住宅ローンについては、金融機関の考え方をしっかりと理解しているかどうかで結果は大きく異なります。たとえばプロパー融資について「〇〇信金」は突然方針転換したから融資はムリという判断をする営業マンもいますが間違いです。相手の事を理解した上で根気強く対応する必要があるのです。