1. 財産分与で対象になるものとは?
夫婦の共有財産の清算行為である財産分与。では具体的にはどこからどこまでが財産分与の対象なのでしょうか。詳しく解説していきます。
対象になるもの
共有財産
共有名義もしくは名義のないもの
- 現金
- 共有名義の不動産
- 家財道具など
非常にわかりやすい共有財産です。これらは当然ながら共有財産となり、財産分与の対象となります。
実質的共有財産
一方の名義になっているものもしくは子ども名義になっているもの
- 婚姻期間中の預貯金
- 車
- 生命保険・個人年金・退職金
- 子どもも学資保険
上記のものも財産分与の対象となります。年金や退職金は当然ながら婚姻期間相応の金額を清算することになります。また学資保険については解約をして解約返戻金を分与するという方法もありますが、親権者が契約名義人・受取名義人となるように手続きをし、親権者ではない方に解約返戻金相当額を支払うという方法も可能です。
対象外(特有財産)
結婚前もしくは別居後の個人財産
- 結婚前の預貯金(住宅購入の頭金にしているケースあり)
- 相続・贈与で得た財産
- 個人的な借金など
不動産購入時に結婚前の預貯金や親からの贈与で得た金額を頭金に充当した場合、特有財産となる可能性がございます。例えば不動産評価が3000万円・住宅ローン残高2000万円・頭金300万円(一方の結婚前預貯金で充当)となれば、3000万円-300万円=2700万円が共有財産となり、住宅ローンとの差額700万円を財産分与として計算する流れとなります。
当たり前ですが第三者からの借入金は勝手に分与できません
借入金は当然ながら借入時に契約名義人が確定しており、その借入金を勝手に財産分与で夫婦の一方に押し付けることはできません。貸した側からしたらそのようなことができてしまったら理不尽極まりありません。よって契約名義人が債務を支払い続ける前提で財産分与を行う必要があるのです。
2. 財産の分け方
原則は2分の1ずつ
それぞれの財産形成の貢献度によって調整することもありますが、原則は2分の1ずつです。たとえそれは一方が専業主婦であってもです。ただし双方が合意すれば共有財産から除外することも可能です。いずれにしても協議が必要となります。
財産分与の流れ
共有財産をリストアップする
プラスの財産・マイナスの財産含めてリストアップします。その際特有財産になりうるものもしっかりと把握しておきましょう。協議前に把握しておかないと話が振り出しに戻ってしまうどころか、拗れるケースもございます。
「プラスの財産-住宅ローンなどの借入金」が財産分与の対象
先述した通り住宅ローンなどの借入金は第三者との契約によって返済義務を負っています。当然ながら勝手に債務者名義を変更したりできるものではありません。よって借入金があることを前提に財産分与の協議をしなければなりません。
オーバーローン(不動産の評価額<住宅ローン)であれば不動産も財産分与の対象外となります。
売却もしくは現物で分ける
売却して全て換価をし、きっちりと2分の1ずつに分けることが一番揉めない分与方法です。しかし中には思い入れのあるもの、諸事情により現物で必要なものなどがあると思います。その際はしっかりと時価評価をしてそれ相応の金額を相手方に支払う必要があります。
3. 財産分与と税金について
分与財産 | 譲渡する側 | 譲渡される側 |
---|---|---|
金銭 | 非課税 | 非課税 |
現物(株式) | 譲渡所得税 | 非課税 |
現物(不動産) | 譲渡所得税 | 登録免許税 |
財産分与は原則非課税
そもそも財産分与とは、夫婦の共有財産を清算する作業です。よって現金で金銭の授受が行われている場合、社会通念上あまりにも高額であったり、節税のために離婚をしたりなどしない限りは原則非課税となります。
現物で支払う場合は譲渡所得税課税もある
財産分与は金銭払いであれば非課税ですが現物で支払う場合は注意が必要です。
譲渡する(支払う)側
利益分に対して最大40%の譲渡所得税
不動産や株式などは譲渡して利益が出るとその利益分に対して最大約40%の譲渡所得税が課税されます。たとえ離婚するからといって財産分与で譲渡したとしてもそれは同様です。要するに所有権移転するタイミングでしっかりと課税対象分を精算しなければならないのです。
相続した不動産の場合は特に注意
譲渡所得(利益)は簡単に言うと「譲渡価額」-「取得費」で算出されます。そして取得費が不明もしくは証拠書類がないの場合、「譲渡価額×5%」が取得費として計上されます。よって譲渡価額×95%が譲渡所得となるのです。よって譲渡所得税もかなりの金額となります。
譲渡される(受け取る)側
不動産の名義変更(所有権移転登記)のための登録免許税が課税
受け取る側については不動産の名義変更(所有権移転登記)のための登録免許税が必要です。不動産を取得した場合は本来不動産取得税が課税されますが、財産分与の場合は非課税です。(慰謝料の場合は不動産取得税が課税されます。)
4. 不動産の財産分与と譲渡所得税
不動産の譲渡所得税について詳しく見ていきたいと思います。譲渡所得税そのものの計算方法を以下に記載しました。
不動産譲渡所得税の計算方法
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得税=譲渡所得×税率
の計算となります。以下詳細を説明します。
1. 譲渡価額
要するに売却した金額です。譲渡所得の内訳書では土地の種目や建物の用途、自己の居住用なのか賃貸用なのかなど細かく記載する箇所がございます。
2. 取得費
要するに購入した金額のことです。万が一購入した金額が分からない、証明する資料がないという場合には「譲渡価額×5%」が取得費となります。また相続・贈与で取得した場合については前所有者の取得費を引き継ぐことになっています。相続であれば大抵の場合は時価より相当安い金額で取得しているケースが多いので注意して下さい。なおこの取得費は実際に購入した金額から「建物減価償却費(建物の価値の棄損分を計上した費用)」を控除した金額となっております。
3. 譲渡費用
売却に要した費用のことです。例えば売却時の仲介手数料や契約書の印紙代などが含まれます。
4. 税率
「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」に対して不動産の所有期間に応じて以下の税率が課されます。「売却した年の1月1日時点で」5年超であれば長期、それ以下であれば短期となります。
長期・短期 | 税率 |
---|---|
長期譲渡所得税 | 39.63% |
短期譲渡所得税 | 20.315% |
譲渡所得税の節税
譲渡所得税には以下の控除や軽減税率の適用が認められています。
3000万円の特別控除
自己の居住用財産を売却した場合には居住用財産の3,000万円控除の特例の適用を受けることができます。ご自宅を売却する方のほとんどはこの特別控除によって譲渡所得税の課税を免れているワケです。なお要件のうち主要なものは以下の通りです。
- 自己の居住用の不動産
- 以前住んでいた場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと
- 売った年、その前年および前々年にマイホーム関連の特例を受けていないこと
です。離婚が成立する前に不動産を相手方に譲渡してしまうと、この特別控除の適用は受けられません。
軽減税率の適用
譲渡所得の税率は長期(5年超)と短期(5年以内)に分類されますが、仮に「売却した年の1月1日時点で」10年超で、かつ主に3000万円の特別控除とほぼ同様の条件をクリアしていれば税率は以下の通りとなります。
譲渡所得(A) | 税率 |
---|---|
6000万円以下 | A×10% |
6000万円超 | (A-6000万円)×15%+600万円 |
となります。
なお詳しくは国税庁HPにて詳しく記載がありますのでそちらをご確認下さい。