共有持分とは
民法上の共有の規定とは
共有については民法第二編「物権」の「所有権」の中にその規定があります。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
民法第249条
2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。
「全部についてその持分に応じた使用」が認められているため、共有者の1人が占有していたとしても排除する権利が認められているわけではなく、あくまで「自己の持分を超える使用の対価を償還」させることしかできないということです。
そして共有者は善管注意義務を負うため、たとえ他の共有者に占有されていたとしても、不法行為が発生すればその責任を負わなければいけません。
共有物に対して認められている3つの行為
単独所有であれば気にも留めないことですが、共有となると共有者の行為には制限が加わります。以下の3つです。
- 変更行為
- 管理行為
- 保存行為
それぞれ具体的に見ていきましょう。
1. 変更行為
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
民法第251条
変更行為とは「形状又は効用の著しい変更を伴うもの」という解釈ができます。つまり
- 不動産の売却や抵当権設定など権利関係(効用)の変動を伴う行為
- 修繕や改築など形状に著しい変更を伴う行為
ということになります。なお権利関係の変動についてはあくまで共有物全体に対してのみであって、自身の持分のみであれば問題はありません。
変更行為についてはは共有者全員の同意が必要ということになります。
2. 管理行為
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
民法第252条
管理行為とは、変更行為には至らない程度の利用・改良行為のことを指します。共有物の改築などはそれにあたります。しかし賃貸借契約になると話は少し複雑になってきます。賃貸借契約でも定期建物賃貸借契約(2年)であれば管理行為として認められますが、普通賃貸借契約で長期間貸し付けるとなると退去をさせることはとても困難(借地借家法により賃借人保護が図られているため)なため変更行為とみなされます。※ちなみに建物の短期賃借権は3年(民法602条)と規定されているため、定期建物賃貸借契約も3年がひとつの目安になるものと思われます。
その他の保存行為の例を挙げます。
- 使用貸借契約の解除
- 普通賃貸借契約の解除
- 共有物の改装(増築・改築は×)
です。共有者の過半数の同意が必要です。
3. 保存行為
各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
民法第252条第5項
共有物の現状維持にあたる行為は単独で行うことが可能です。以下例に挙げます。
- 共有物の修繕
- 不法占拠者の立退き
- 法定相続分で相続登記
です。「法定相続分での相続登記」についてはやはり未登記であるリスク回避という点で保存行為にあたると解釈されています。
共有状態になる経緯
共有状態になる経緯は人それぞれですが、大まかに以下のようなパターンに集約されます。
- 共同購入
- 親子
- 夫婦
- 相続
- 遺産分割協議で相続登記
- 遺産分割協議がまとまっていない
- 相続人のうち一人が単独で法定相続分で登記
- 相続人のうち一人に対する債権者が代位で法定相続分で登記
- 相続が繰り返され縁遠い人と共有
- その他
離婚や相続がきっかけで共有持分であることの問題が表出します。経緯はいずれにせよ放置して相続が繰り返されるといよいよ解決の糸口も見えなくなります。また共有者が相続登記をいなければ共有者の存在すら分からないという問題もございます。その場合は協議すら困難になってしまいます。
共有持分のメリット・デメリット
以下共有持分のメリット・デメリットについてご説明します。結論から言うとメリットは共有を選択するタイミングでのみ享受できるものです。現在共有状態にある人にはメリットは特段ありません。
メリット
- 住宅ローンが組みやすく、さらにそれぞれ住宅ローン控除適用あり
- 共有者それぞれが3000万円特別控除適用あり
住宅ローンが組みやすく、さらにそれぞれ住宅ローン控除適用あり
夫婦の場合に多いです。夫婦二人の収入が合算されるため住宅ローン審査が通りやすくなります。さらに住宅ローンの借入をしていると年末の残高に対して一定割合の住宅ローン控除を認めてくれますが、こちらも夫婦ともに適用があり節税効果が高くなります。
共有者それぞれが3000万円特別控除適用あり
不動産を売却した際に利益が出たらその利益に対して最第約40%の譲渡所得税が課税されます。しかし居住用不動産であることなどいくつかの条件をクリアすれば3000万円までは無税となります。その適用を共有者も受けられるためかなりの節税効果があります。
デメリット
- 管理行為・処分行為・変更行為がしづらい
- 相続が続けばいよいよ解決の仕様がなくなる
- 共有者の損害賠償責任
デメリットについては上記の通りです。特に損害賠償責任についてはやはり最大のデメリットといっても良いでしょう。
共有者の損害賠償責任
まずは所有者の責任について民法に規定がございます。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
民法第717条
不法行為によって生じた賠償責任は民法432条に規定があります。
(連帯債権者による履行の請求等) 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
民法第432条
1000万円請求されたとして「持分2分の1だから500万円しか払えません」という主張は通じず、全額支払う必要があるということです。不動産を所有している以上、このようなリスクはついて回ります。もちろん共有持分の割合に応じて負担をしますが、あくまで連帯債務です。
やはりデメリットのことを考慮すると、共有者との関係が良好でない限り共有持分を持ち続けることはリスクの方が大きいと考えるのが一般的な結論でしょう。