適正価格が重要な理由
親族間売買で重要な価格の設定。もちろん相場の価格をもって現金で売買代金の支払を行うのであれば何ら問題ありませんが多くの場合はそうはいきません。価格設定が重要な理由は2つあります。
- 売主の相続発生時に兄弟姉妹らと揉める可能性がある
- 贈与とみなされる可能性がある
1. 売主の相続発生時に兄弟姉妹らと揉める可能性がある
親が所有していた不動産を子のうち1人に移転させていたとなれば、「いくらで譲ってもらったのか」は当然気になるところです。その金額が適正価格であれば揉めることはありませんが、不当に安ければ不公平感を感じずにいられません。
2. 贈与とみなされる可能性がある
適正価格でなければ、時価との差額は売主から買主への贈与とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。多くの方が気にしているリスクはみなし贈与に該当するか否かでしょう。次の章以降で詳しくご説明します。
適正価格と贈与
では早速みなし贈与についてご説明します。
贈与税は相続税の補完税。よって相続税の理解が不可欠
親族間売買の取引単体を検証している専門家もいますが、そもそも間違いです。大前提として贈与税は相続税の補完税であるということを理解しなければなりません。贈与税法という法律はなく、相続税法の規定の中に贈与の規定が記述されているのです。贈与税は相続税の課税から逃れるための財産移転を捕捉するために設けられた税金であることを理解しておきましょう。
そうなると重要なことは相続税の理解です。遺産総額1億円で70歳のAさんと、遺産総額3000万円の50歳のBさんとでは親族間売買の立ち位置も変わってきます。それが相続発生時により近いほどその影響は色濃く出ます。Aさんの方が適正価格についてより注意を払う必要があるということは一目瞭然でしょう。
みなし贈与の規定
まずはみなし贈与の条文を確認しましょう。
(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。以下省略。
相続税法第7条
この規定では「著しく低い価額での対価」とあります。そしてこの「著しく低い価額」という表現が一体いくら位であるのかは判然としておりません。
親族間売買しなくても解決できる!?贈与の種類
- 暦年贈与
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
- 相続時精算課税制度
暦年贈与
いわゆる一般的な贈与です。
特徴)
- 毎年1月1日~12月31日までの贈与から基礎控除110万円を減じて贈与税率を乗ずる
- 10~55%の累進課税
- 相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与に戻すことはできない
なお直系尊属(父母もしくは祖父母など)からの贈与の場合(ただし受贈者は18歳以上)は、特例贈与財産として一般贈与財産よりも贈与税額が低くなります。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
夫婦間で親族間売買をするのであればおしどり贈与で移転させてしまう方法もございます。
特徴)
- 夫婦の婚姻期間が20年超
- 居住用不動産もしくはその取得資金に限定
- 最高2000万円まで控除
- 不動産取得税4%(相続の場合なし)と登録免許税2%(相続の場合0.4%)がかかる
相続時精算課税制度
財産移転時に贈与税を課税するのではなく、相続時に贈与財産も遺産総額に算入して課税する制度です。この制度を選択すると暦年贈与に戻すことはできません。ただし認知症対策などをお考えであればこの方法で不動産を移転することも検討すべきかと思います。
特徴)
- 2500万円の特別控除があり
- 相続時に精算
- 2500万円を超えた分は一律20%の贈与税が発生(相続時は支払った贈与税は税額控除)
適正価格設定の流れ
その1. 売主の相続発生時について検証をする
ざっくりでも構いません。ご自身の相続を理解しておくことで親族間売買の適正価格や税務署等がどう判断するかなどがイメージつきやすくなると思います。
- 遺産総額(※土地は路線価・建物は固定資産税評価額で計算)
- 法定相続人の数を把握
- 基礎控除額(3000万円+法定相続人の数×600万円)を下回るか上回るか
- 相続税が課税される場合の対象不動産が占める割合は?
- 法定相続人以外の人に親族間売買で譲渡する場合は注意(相続税2割加算)
この程度で構いません。
その2. 市場相場と路線価を調べる
2-1. 市場相場を調べる
- 不動産鑑定士に鑑定料を支払って調べる
- 不動産会社に査定をしてもらう
1)不動産鑑定士に鑑定料を支払って調べる
報酬は約20万円前後~が一般的
不動産鑑定士は鑑定の独占業務を有する国家資格者であり「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づき鑑定評価をします。国の公的な不動産価格も全て不動産鑑定士が鑑定しています。
2)不動産会社に査定をしてもらう
宅地建物取引業者は媒介契約締結前に(無料)査定をする必要あり
やはり相場を知り尽くしているのは不動産会社です。そもそも不動産鑑定士が行う鑑定には、国土交通省が収集した取引事例を参考にしています。時価の把握には不動産会社の査定は重要です。
2-2. 路線価を把握する
路線価を把握しましょう。路線価とは毎年国税庁が発表する相続税計算のベースとなる土地の評価のことです。道路毎に㎡あたりの土地価格が付されています。詳しくはサイトをご確認下さい
その3. 親族間売買の判例を見る
以下国税不服審判所が裁決をした事例です。
平成15年6月19日裁決の事例
その4. リスクを勘案した上で判断する
親族間売買の課税トラブルは数年後に発覚します
みなし贈与については国税不服審判所も述べている通り、「当該財産に係る譲受けの事情、譲受価額、市場価額及び相続税評価額などを総合勘案して社会通念に従い「著しく低い価額の対価」に該当するか否か判断すべきものと解するのが相当」となっています。特に当該財産に係る譲受けの事情については税務署が都度判断するため、たとえ税理士といえども安易にアドバイスできるものではないということです。ひとつずつ丁寧に検証した上で諸条件との折り合いでどう判断するかが大切です。
いずれにしても相続の専門家以外に親族間売買を相談することだけは絶対に避けた方が良いでしょう。